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采女(うねめ)【能ものがたり】

春日大社への夜の参道を厳かに歩む乙女。桜吹雪の絨毯を踏み藤の香りを纏いつつ、異邦の僧を神前へ導く。この神域からひと枝なりとも持ち去ることは許されない。

この森は信仰ある人々の手によって繁り神意を継承し続けていると語る女は、昔帝に仕えた釆女の霊魂。猿沢池に今も留まる・・・


たおやかな舞と心で帝を癒した乙女は、寵を失い哀しみのあまり、放生の儀式の猿沢池にその身を沈めた。駆けつけた帝が目にした遺体は未だ紅の唇。池の藻に乱れ絡む黒髪が悩ましい。


  「吾妹子が寝ぐたれ髪を猿沢の池の玉藻と見るぞ悲しき」


帝の流した涙によって釆女の霊は成仏する。水は尽きぬ愛の標。

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