ふたりが永遠に一体だと信じ合った想い出の井戸に、女の魂は男の衣装を纏い浮遊する。
幼い頃たけくらべをした井戸。ふたりはやがて大人になった。
筒井筒、井筒にかけしまろがたけ 過ぎにけらしな妹見ざる間に
僕の背丈も想いのたけも、井戸から溢れてしまったよ。求婚の和歌。
物語は続く。男は山を越え高安の女のもとへ通う。
夫を微笑んで見送る女はその通路を案じて呟く。
風吹けば沖つ白波たつたやま夜半にや君がひとり越ゆらむ
妻の純心を知り、男は高安通いをやめた。
時が過ぎ女の魂はなお、井戸の傍から離れない。その姿は夜明けとともに消え去り、恋の薫りが残される。
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