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道成寺(どうじょうじ)【能ものがたり】

昔、悲劇があった。


熊野へ修行の僧、安珍と恋に落ちた清姫は約束を信じ迎えを待つが、僧は修行を優先する。追う清姫、逃れる安珍。いつしか姫は蛇となって河を渡る。紀州道成寺に至り安珍は降ろした鐘に隠された。女の執念、既に蛇となって鐘に巻きつき火を吹き男を焼き殺した。


以来不吉とて道成寺に鐘はない。

あるとき鐘再興の運びとなった。境内は女人禁制だ。供養に舞を手向ける白拍子、実は清姫の怨念だった。乱拍子と呼ばれる特殊な舞は、女の男を想う複雑な念が凝縮されたかのように空間が凍りつく。その足どりは石段を登る蛇の足どりとも。


鐘は落ち怨念は今もそこに居る。

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