なでしこの とこなつかしき 色を見ば
もとの垣根を 人や尋ねん
夕顔の女の忘れ形見、玉鬘に会った光源氏の歌。
こんなに美しく育った貴女を見たならお父上は、お母様のことも思い出されることでしょう・・・
お父上とは、光源氏の親友、頭の中将。
夕顔は頭中将が愛した女だったが、おっとり優しい性格だったので、正妻からひどい嫌がらせをうけて五条の質素な家に隠れ住んでいた。
偶然、隣は光源氏の乳母の家。
病気の見舞いのつれづれに、半蔀に咲く可憐な夕顔の花を仲立ちに、ふたりの恋は始まった。
趣味の良い香をたきしめた、普段使いの白い扇を
「その花を載せてお持ちください」
と渡した童女は、後の玉鬘であったか。
扇に書かれていた和歌は
「心当てに それかとぞ見る白露の 光そへたる夕顔の花」
私のような質素な花に、光を添えて下さる貴方はもしや、あの方では・・・
おそらく彼女は、頭中将と間違えたのだ。探し当てて、来て下さったと、愛娘に扇を託して。
積極的すぎる手管に、光源氏は疑いを持つ。
もしや、頭中将の話に聞いた正妻の嫌がらせにより行方知れずとなった女では。
ほどなくそれは確信に変わった。
女は、娘を撫子にたとえ、
「私のことはともかく、この可愛い娘は気にかけてやってください」と
頭中将に望んだ。
頭中将は女を「常夏の花」に例えていつも君を愛しているよと言った。
常夏の花は、からなでしこ。岩場にも咲くので石竹ともいう。
春から夏までいつでも愛らしい花を咲かせて笑う。
そんな君が好きだよと。
扇を渡した相手が頭中将ではないと、女もすぐに気づいただろう。
娘の将来を鑑みた場合、頭中将さまの娘を産んだ自分であると素性をあかしたとして、この方の妻として扱ってもらえるのか
そうなった後に、頭中将さまが訪ねてこられた時裏切ったことになるのではないか
女はどちらをより深く愛していただろうか
光源氏が連れ出した、暗い某院で夜明けに萎む夕顔の花のように女は息絶えた。
女が恐怖したのは、自らを責める罪の意識ではなかったか
常夏と夕顔
ふたつの花は、重ならない
頭中将の前で見せる姿は常夏だったか
二面性の危うさを、光源氏は夕顔と感じたのか
「半蔀」を舞うにあたって、夕顔の女のイメージは「常夏」だ。
明るく、柔らかく、芯が強くて品が良い。
芯が強いということは、自己をしっかり持っていていい加減ではないのであってその命の終焉も女は自ら選択したのだと思う。
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